目指すゴールはもっと先にある
「キャスターとキャスターの上部にある上物がぴったりマッチしてはじめて、製品の完成度が高まります。そうなれば、製品を使う方も心地良かったり、作業性が高まったりするわけですね」
そう語るのは営業本部長の大江。キャスターは製品の要を担う重要なパーツだが、それだけで製品ができ上がるわけではない。あくまで製品の一部であり、その組み立てはお客さまの手にゆだねられる。
その宿命ゆえに、「組み立てる方法が間違っていればすべてが台無しになってしまう。キャスターは悪くなくても壊れることだってあります」と語るのは吉田常務。
そんなトラブルをなくすために、組み立て部品を少なくする、間違ったらすぐ分かるようなしかけを組み込んで設計する……。誰がやっても間違えずに組み立てられる方法を、知恵を絞って考え出す。
「たとえば印刷会社が間違えた商品札を納入したとしても、製品に付けて出荷すれば我々の責任になります。だからこれを印刷するときには束になったときに見分けがつくように、品種ごとに固有のラインを入れる、といった工夫を常にしています。そうすれば作業する側も間違いに気付くことができる」。
どう改良すれば間違いを避けられるのか、それは間違えた人間に聞くのが一番。
「だから作ること、売ること、すべてにおいていかにコミュニケーションをとるかが大切。聞いて改良、聞いて改良、その繰り返しです」。
良いキャスターを作ることがゴールではない。製品のために本来の能力を発揮し、製品を下から支え確実に機能すること――そんなひとつ先のゴールまで見据えている。だからこそ、ハンマーキャスターの製品はユーザーから圧倒的な支持を得ることができる。
真っ正面からモノづくりに向き合う
ハンマーキャスターでは、グッドデザイン賞や海外のさまざまな賞など、製品の受賞も数多い。
「でも自分としてはそんなことよりクレームで悔しい思いをすることのほうが多いので…」と控えめに話すのはプレスを担当する下農である。
「正直言うと、品質やデザインでどうやって褒められるかよりも、いかにクレームを少なくするかについて考えることの方が多い。常に安定した品質のキャスターを提供できるように、と思いながら取り組んでいます」。
たとえば新製品の開発にしても、サンプル段階から大量生産へ移行する際には製造部の意見が反映される。そのときも「自分たちがラクするとか、雑にしたりというようなことではなくて、品質を良くするための要望を言わせてもらっています」。
「何度も失敗しながら、図面通りにモノが仕上がったときが一番楽しい」と語るのは加工を担当する長井だ。とはいえ、できあがったものを見て「これでいいや」と考えるか「これではダメだ」と考えるかは自分次第。自分に厳しくないと、「一番楽しい」瞬間は訪れない。
寸法を測る、図面をきっちり描いてみる……。自身が満足できるモノづくりのためには、そういう下準備をきちんとすることが欠かせないという。
「まじめと言われると…それが普通なので、自分がまじめだっていう自覚はないですね」。
彼らのなかには一足とびに成果を得ようとしたり、ラクをして褒められようというような考えはない。地道な作業を支えているのは、真っ正面から品質と向き合う職人としてのプライドだ。
一番であることの品格は、謙虚さから生まれる
社員誰もが自社製品に誇りを持ち、我が子のように愛を注ぐ。ハンマーキャスターではそこかしこで見られる日常の光景だが、吉田社長はそんな愛社精神にもあぐらをかくところがない。
「あまりにも自社を愛しすぎるというのも、実はそれで問題があるんです。たしかに私自身も、我々の製品はすばらしいと思います。でも他社には他社の良いところもある。それに気付けなくてはダメなんです」。
自社が一番だという意識が強すぎても、他から学ぶ余地がなくなってしまう。それでは伸びないと言うのだ。
「何ごとも極端になりすぎると良くない。バランスが大切なんです。常に周囲から学ばせてもらうという謙虚さも必要。それもこれも、製品で一番になりたいという気持ちからなんですけどね」。
「明るく、楽しく、真剣に」。節目ごとに吉田社長がよく口にするフレーズである。
そこに最近、「品格」という言葉が加わるようになった。この言葉には、正義感や責任感をはじめ、「常に思いやりを忘れない」「裏表なく常に公平に人に接する」「日々を丁寧に生きる」といったさまざまな美徳が含まれる。とても幅が広く、懐も深い言葉である。
「なかでも謙虚さ。一番であり続けるためには、それを忘れてはいけません。一番であるかどうかを決めるのは、自分ではなくてお客さま。自分が一番だと思うことは大切だけれど、それに酔ってしまってはダメなんです」。
ハンマーキャスターは常にパイオニアとして業界の先頭を走り続けてきた。その地位に奢ることも安住することもなく、謙虚に周囲に学ぼうとする姿勢。そんなモノづくりへの真摯な取り組みが、またプロダクトの品質を高みへと引き上げ、評価されるという好循環をつくりだしている。